庭って立ち止まりながらつくるもの。家族も変わるように庭もエイジングしていきます。ガーデンキュレーターの仕事は経験があってこそできるので、年を重ねても長く続けていけるものです。若い方がこの業界に入る礎にもなりますね。
この仕事を始めたきっかけは?
4人の子どもを育てる一主婦でした。庭をつくりたいと花の種をまいたら芽が出て、苗を育てたら花が咲いて。一人で楽しむのではもったいないと思って、北海道の月形町にある家の前で売り始めたのが1995年のことです。自然の中で育ち、母は庭で花を育てていたり、写真をやったりしていて、私も植物は好きでしたが、庭の世界に入ろうとは思っていませでした。ちょっとした出会いがあり、導かれるようにこの道に。
アメリカ人の友人がマーサ・スチュワートのガーデニングブックを買ってきてくれて、裏表紙にカタログ請求先が書いてあったんですね。当時、日本で見たことのないような宿根草の種がこんなにあるんだなと。FAXでかたっぱしから注文して、30種類くらいの種を頼んだのが最初です。主婦の私にとっては清水の舞台から飛び降りるくらいの出費でしたが、5年後には数百という数を買うようになって。種をまいてまいて、まき続けました。宿根草は、種で育てられるものはドイツからも大量に仕入れて試しました。もう、何千種類と試しました。ワイルドな感じの野趣あふれるものが好きで。一年草も、一般には背が高くて自然の姿では流通しないものを。どこにもないもの、自分が欲しいものを育てていました。
花だけでなく野菜の種も取り寄せて、トマト苗も何十種類と育てていました。あのころホームページもSNSもなかったけど、口伝えでなのか、よそからお客さんがたくさん来てくれるようになりました。最初は「こんな田舎で花なんて売れるわけないよ」なんて、周りにも言われていましたけど、田舎であることをよい方向にとらえて、私にできることはなんだろう、と考えながらやってきました。花が売れて、頼まれた仕事を絶対に断らずにやっていくうちに、大きな仕事につながっていったんです。そのうちに、国営滝野すずらん丘陵公園(札幌市)の仕事をいただいたり、ノーザンホースパーク(苫小牧市)という馬のテーマパークのガーデンづくりという、大きな庭の仕事にも携わるようになりました。
休む日もなく25年以上が過ぎて、私が立ち上げたコテージガーデンという会社は2020年に社長を退任して、後進に引き継ぎました。ノーザンホースパークの仕事は引き続き管理監修をおこない、その他個人での庭の設計・工事の仕事を受けています。
自分の強み、得意分野を教えてください。
植物に関しては得意分野です。花のセレクトとどう植えたらいいか、管理も含めて相談されることが多いです。
その場に合わせる、ということを大事にしています。環境や管理する人がどこまでできるかを考えながら、引き算しながらどう植物を入れるか考えています。手間をかけられない人にはかけなくてよいものを。その人に合わせたかっこいいものを提案したいと思ってやってきました。お花がすごく好きな方には、思いを詰め込みすぎないで、相手の方が自分でできる環境づくりまでを。相手を見ることですね。
お花は四季折々に、春から秋までにスターがいるので、織り交ぜています。春はスイセンがいいですね。スイセンにもこだわりがあって、日本でよく見る種類ではなくて、イギリスのラッパ型のシクラミネウスが好きです。一年草も組み合わせます。宿根草の顔をした、花壇花っぽくない、野趣あふれる背の高い一年草を好んで選びます。Instagramで紹介していますが、白い花のニコチアナがとても好きです。タバコの花なんです。
観光ガーデンや公園だと、四季をリレーしないと飽きられますし、色や形、強さ弱さがあるので好き嫌いでは選べません。きれいだけど風にすごく弱いとか、3日で花が枯れちゃう、といったものは公共的なものには向かないですね。
ガーデンデザインは自分の作品を押し付けることはできません。「悩みをかっこよく解決するのがデザイナーの仕事」とある先生に言われて、なるほどと思ったんですよね。パートナーシップについては、いつも考えています。押し付けではなく、その方に一番あうものを提案すると喜んでくださる。子育てと一緒だなと感じていますね。
20年近く、ほぼ毎日ブログを書き続けています。会社を卒業してからは、YouTubeで庭紹介の動画も配信しています。
自分の庭をつくりたくて自分の仕事を始めたはずが、会社をしていたころは自分の庭づくりはまったくできなかったんですね。今度は自分の庭をつくる番だと思っています。長い時間かかったけれど、今やっと。30年前にはわからなくてできなかったことが、人に相談しないでもできるようになりました。そのために今までの時間あったと思うと、自分の庭づくりが楽しくてたまりません。庭って立ち止まりながらつくるものだなと実感しています。ですから、お客さんにもまったくここで完成じゃないからと伝えています。家もエイジングし、家族も変わっていく。庭も家族とともに変わっていくものですから。
ガーデンキュレーター協会設立に向けての意気込み、期待すること
私自身が、キュレーター的な立場で仕事をするようになりました。庭の設計者の意図を汲んで、施工側と経営者のあいだに入って調整する役割ですから、両方の立場を理解して調整していく必要があります。経営側には「本業が厳しいと予算も厳しいので、そういう時には、最低限ここだけはやっておきましょう」という提案をしています。
私がガーデンを管理している公園では、コロナの間は一番集客できる時にクローズしていたんですね。造園はやらないと荒れてしまいますから、カットする提案もしつつ、造園の作業は続けていただくようにお願いしました。公園によっては管理が発生するからと植えた植物を抜いたところもあったと聞きます。今後の公園、ガーデン、ランドスケープの世界において、キュレーターはすごく大事な仕事だとひしひしと感じています。
キュレーターの仕事は、マネジメント、交渉力など、経験があってこそできることと思っています。年を重ねても、こうした経験を生かす仕事なら長く続けていけますよね。キュレーターの仕事が職業として成り立っていけば、これから若い方たちがこの業界に入る礎になるかなと思い、後押ししたい気持ちで協会設立に賛同しました。
ガーデナーは普段、孤独な仕事ですから、こういう場で情報交換できるのはすごくいいことだと思います。私はJAG(ジャパンガーデンデザイナーズ協会)にも入っていますし、いろんな横のつながりを大切にしながら、この協会はオープンな組織として、進んでいけたらいいのではと思っています。
インタビュー:梶田亜由美(森ノオト)