造園業自体がオーガニックであることが前提。生態系と調和しながら美しい環境をつくっていく、そのフィロソフィーを、分野を超えてつくり上げていくことがガーデンキュレーターの役割の一つだと思っています。

港区にあるフレンチラストラン「六本木テラス フィリップ・ミル」のデザイン、植栽管理はQ-GARDENが手がけている。限りなく自然で野生味があり、枯れてもなお美しい庭という「ニューペレニアル・ムーブメント(新多年草運動)」を表現した、ナチュラルな植栽デザイン

この仕事を始めたきっかけは?

 大学時代は農学部の森林科学科で林業の勉強をしていました。環境汚染や大気汚染、原発の問題などに関心があり、環境について勉強しておけば将来何かの役に立つだろう、というくらいのつもりで入学しました。私が師事した先生が、森林セラピーや「里山」の概念を提唱した方で、森林の環境を人間の精神的な豊かさに生かしていこうという研究をしていました。林業についてもただ材木を作って売るということを超え、神話、民話など森にまつわる民俗学的な話まで、100年かけてどう材を作っていくかという本質的な学びをしていました。

 大学卒業後は大手造園会社に就職しました。工場やビルの緑地管理を担当するなかで、緑地に農薬をまく仕事で気持ち悪くなる経験をしました。今では農薬散布時には厳密にマスクや手袋をしますが、昔は素手で、周囲を人が歩いていても平気で農薬を使っていた時代です。緑地管理と言いながら、虫を大量殺戮するようなことが嫌だなあと思い、農薬を使わないで作業をしたいと上司に言ったら、「それでクレームがきたら誰が責任をとるの」と言われて終わる、そんな日々でした。

 3年間働いて転職し、その頃はガーデニングのブームがきていて、身近な一軒家のリビングやガーデンにつながった空間を設計したいと、インテリアの学校に通って勉強しました。当時はガーデニング会社という概念がなく、花は花屋、造園は造園会社というように分かれていたので、草花のことを実地で学べるよう知り合いの花屋でバイトして、仕入れのことを学びました。

 その後、前職時代の先輩と個人邸の設計施工を行う会社を立ち上げた際に、バラ研究家の梶みゆきさんと出会ったのが大きな転機になりました。バラは化学薬品なしで育てるのは不可能と言われていた時代に、無農薬でバラを育て、オールドローズなどのブームを起こした梶さんに、「農薬を使わずに個人邸のバラづくりをする方法を教えてあげる」と言われて、2、3年梶さんのお宅に通って土づくりなどを教えてもらいました。その頃には「自分でやるなら、オーガニック」と決めて、私自身も少しずつ個人邸の設計施工やメンテナンスを行うようになり、2008年に独立してQ-GARDENを立ち上げました(2011年3月に法人化)。

Q-GARDENの代表的な仕事の一つに、星の王子様ミュージアム(神奈川県箱根町)の植栽管理がある。エントランスを抜けた先のヨーロピアン・ガーデンでは、サクラ、アジサイ、バラ、クリスマスローズの4つの花をテーマに構成されていた(総合デザイン:吉谷桂子、2023年に閉園)

自分の強み、得意分野を教えてください

「オーガニック=本質的な」ガーデンをつくることにあると思います。オーガニック=有機ということ以上に、本質的に心地よい、本質的に環境がよいガーデンづくりをしています。

Q-GARDENのホームページには、「オーガニックガーデン5か条」として、「環境への配慮」「人や動物にも安心」「景観の保持」「生物多様性への寄与」「種の保存」を掲げています。これらをビジネスとして成り立たせていくことが、私の強みと言えるのではないかと思います。

 私は独立して初めのころから「オーガニックガーデン」を発信していますが、私を選んでくださる方の多くは、オーガニックだからといって選ぶのではなく、おしゃれだから、とかデザインがいいからと言って選んでくださいます。「いつかお願いしたい」と新聞の切り抜きを大切に保存していたり、ラジオを聴いて「この人と思ってメモしていました!」という声を聞くとうれしいですね。

インタビュー時のオフショット。どの現場に行っても、その場の植栽に目をやり、その木をどのように剪定するとよいか、景観との馴染ませ方について考える

 最近では仕事の幅の広がり、2023年度の仙台市の全国都市緑化フェアの大花壇の設計デザインや、2024年の川崎市の全国都市緑化フェアにも関わっています。横浜でも2027年にグリーンエキスポといった花と緑に関わる大規模なイベントが行われますが、大きなイベントこそ、「市民が集って花を植えました、楽しかったです」で終わりにしてはいけない。ボランティアに来てくれた人が、普段の生活に戻って、地元の住宅街での花壇づくりに派生していくことにこそ、イベントの意義があると思います。大きなイベントでは、その場限りの見た目の華やかさをつくり、大量の廃棄物を出すような一過性のさまざまな問題がありますが、市民の日常生活にオーガニックな未来をつくっていくことに寄与できる意義があると感じているからこそ、参加しています。

2023年に仙台市で開催された全国都市緑化フェアの大花壇「はなばた飾り」。小島さんがデザインを手がけた大花壇は、期間中の植え替えにも市民ボランティアが参加した

ガーデンキュレーター協会設立に向けての意気込み、期待すること

 マンションや商業施設等の継続したガーデン管理をしていくなかで、植栽はその後のメンテナンスや周囲の環境に調和し、かつ年間の管理維持コストの検討なしに、考えてはいけないものだと思い至るようになりました。ガーデンデザイナーは施工後の3年後、5年後も想像したうえで植栽をデザインしていますが、施工する人と維持管理する人が分かれているので、設計から施工、管理運営までをトータルで見越して調整していく存在が必要です。マンションなら住民の合意形成が必要ですが、それを住民だけでやろうとすると感情的になる。プロが客観的にアドバイスをすることで、結果的にランニングコストも下がるし、コミュニケーションが円滑になり、結果的に「緑の質が上がる」ということにつながります。

仙台の全国都市緑化フェアでは、まちなかの花壇の整備も行った。大きなイベント時には、常に「その場限りでない、生活の場にどう生かすか」を考えてデザインを行う

 キュレーターとは元々、美術やアートの世界で、資料収集、保管、展示、調査研究から、地域資源として生かしていく教育活動までを担う専門職のことですが、まさに編集的と言いますか、ガーデン業界だけでなく社会活動としてもオーガニックガーデンのリテラシー向上につながる仕事だと思います。

 私はそもそも造園業自体がオーガニックであることが当たり前だと思っています。地域の生態を知り、その土地に合った植物を植え、生態系と調和しながら美しい環境をつくっていき、日本の景観自体が世界のお手本になるような目標を持っています。北海道、横浜、沖縄……全国各地にガーデンキュレーターがいて、地域特性に合わせた美しい景観をつくって、海外の人がそれを見て交流して、そんな形を夢見ています。どこの業界もそうですが、ガーデン業界も縦割りです。市民とプロ、プロの中でも専門領域が分化している部分に横串を刺していきたい。ガーデンキュレーターは越境的な役割を果たすと思います。

 そういえば、林学もまさに越境的な学問なんですね。ただ材木を見るだけでなく、環境や土地、土のこと、そして民俗学的な背景も知っていなければいけない。オーガニックガーデンも、100年先のことを想像して、建築、デザイン、芸術のことや、その土地の環境、気候、景観、文化のことなどを深く知ってつくっていくものです。ガーデンは総合芸術と言われています。専門分野に固執せず、越境的にネットワークをつくって、みんなでいい景観をつくっていきたい。そんなふうに願っています。

ガーデンキュレーター協会は、女性ガーデナーが長く働き続けられる環境づくりにも寄与する。「年齢を重ねると体力的に厳しくなってくる造園業界で、その人が培ってきた専門性や知見を活かすことができる資格として生きてくるはず」

インタビュー:森ノオト 北原まどか