家の庭に入るのは、お客さまとの信頼関係があってこそ。季節を感じる庭で、お客さまがお手入れを楽しめるような、関わりの余地をつくっています。ガーデンキュレーターによって、庭に関わる人たちの共通言語を持てることに期待しています。
この仕事を始めたきっかけは?
(藤井)建築設計事務所を経て、インフラ構造物のデザイン事務所で働いていたときに、高速道路脇の公園の遊具や植栽にかかわる仕事があったんです。ここで初めて緑の仕事に触れて、興味を持ちました。建築よりも緑の方がおおらかな気がして、自分にはしっくりきたんです。それで緑の仕事がいいなと思いました。どうやって仕事にするのだろうと、とにかく緑の仕事をと探して、オフィスや商業施設に観葉植物をリースする会社に入りました。ちょうど2000年前後のガーデニングブームの頃で、個人邸や住宅展示場の庭の仕事も少しずつさせていただいて。そこでの経験を通して、飾って終わりではなく、ゆっくりと庭と向き合い、育てていく時間を感じられるような仕事を、と思うようになりました。
(持山)私は服飾小売会社の大型店舗内のお店で働いていました。窓がなく、照明の中で昼から夜まで過ごす日々で、夕焼けを見られるのもお休みの日だけだったんですね。外に行きたいという気持ちから、思い切って仕事を辞めました。間違ってもいいから、とりあえず行動してみようと、上京して専門学校で2年間、ガーデニングやフラワーアレンジメントを学びました。在学中、藤井さんと同じ観葉植物リースの会社でアルバイトを始めたのが二人の最初の出会いです。室内での仕事が多かったので、植物の根っこを地面におろしてあげたい、外の仕事をしようとその後、別の造園会社で働き始めました。
その造園会社で、上司から個人でやってみない?と声をかけてもらった仕事があって。一人じゃ不安だからと藤井さんに声をかけたんです。ユニット名も書類の関係ですぐ決めないと、と、二人の名前をとって、急ぎで決めた「kiyokazu」ですが、今となってはいいかなと思っています。2005年ごろのことで、それからもうすぐ20年になりますね。
(藤井)最初の仕事の後は、知人から紹介された設計事務所を通じて、個人邸の植栽をやらせていただく機会を得て。師匠もなく、自分たちで学んだり職人さんに聞いたり、手探りでしたが、設計事務所との仕事が少しずつ増えていきましたね。二人とも他の仕事と二足の草鞋で数年間やりましたが、「本気でやらないと」と前職の社長にハッパをかけてもらって、kiyokazuに専念しました。
(持山)デザインして作って終わりではなく、庭の成長にあわせた植栽管理もやろうというのが当初からあったので、それがよかったと思います。
強み、得意分野を教えてください。
(藤井・持山)設計して、お手入れもするということを当初から大切にしています。今は7割ほどが個人邸で、ずっとお付き合いが続いている方も多くいます。時を経るにつれて、お客さまも年を重ね、好みも変わるものです。お手入れに伺う時に、お茶を飲みながらお客さまの本音を伺えたり、ちょっと先の計画を立てられたり。それも大切な仕事の一つだと考えています。
二人でフットワーク軽く動けるからこそ、お客さまの希望に対して、工夫次第でできることを広げられます。どうやったらできるかを考えて、望みを叶えられる人でありたいですね。例えば予算的に段階を踏んだ提案だったり、お客さまが自分でやるには難しいことから(プロが)優先的に工事を進める提案をしたり。最近は、お客さまがお手入れを楽しめる庭づくりを考えています。
ご自身の庭ですから、愛でることだけでなく、手を動かすことを楽しめる庭になっていくといいですね。こちらでやりすぎてしまうと、お客さまが関わる余地がなくなってしまう。長年やっていく中で、お手入れをとりあげちゃだめだなと考えるようになりました。楽しいですからね。
個人邸のほか、ランドスケープアーキテクトの方から依頼を受けて、複合施設の低木、宿根草やグランドカバーをデザインする仕事もしており、そういった分野もやりがいがあります。
庭の設計については、冬の景色が決まるとよい庭になると思っています。宿根草だけでなく、低木と宿根草が互いを引き立てあう庭を目指していて、ヒサカキやヒュウガミズキ、カラス葉センリョウ、紫陽花といった、奇をてらわないものを私たちは好んで使っています。昔からあるものでも、今使うと新鮮に感じるものはないか?と考えながら設計しています。
個人邸でも複合施設でも、人がそこでゆっくりと時間を過ごしたいと思える空間を意識しています。毎日行っても、ずっといても飽きない、過ごしやすいお庭をつくりたいです。緑の中で季節を感じられるお庭にしたいですね。手入れも、今まさに刈り立て、とわかるのではなく、なんとなくすっきりした、気持ちがいい、というような仕上がりを目指しています。
ガーデンキュレーター協会設立に向けての意気込み、期待すること
(藤井・持山)小島さんとは、造園家でランドスケープ・デザイナーの田瀬理夫さんの講座で出会い、小島さんのオーガニックガーデンの講座に参加したつながりもあり、キュレーターキャンプに参加しました。
ガーデンキュレーターという仕事を聞いた時に、まさに自分たちがやってきた仕事だなと思いました。ガーデナーや職人さんがこれまで庭の作業に含めていたことを抽出して、その職能の輪郭をつけて見えるようにしてくれました。お客さま側からすると、庭に対して望んでいることは何かが、ガーデンキュレーターによって、より見えやすくなるのではと思います。
ガーデンキュレーターの役割のひとつは、ランドスケープアーキテクト、ガーデナーや管理業者など庭に関わるプレーヤーとお客さまとをつなぎ、みんなで庭をどう育てていくのか、庭の将来像を共有して、折々の環境の変化も取り込みながら柔軟に管理手法を探すことだと思います。庭の大小にかかわらず、庭はできた後がとても重要です。庭をつくったものの、数年後にはそれに掛けた時間と努力が無駄になっていたというケースも少なくありません。ランドスケープアーキテクトをはじめとして庭作りに関わる人たちとタッグを組んで、建築設計チームと計画の早い段階で密に連携をとっていければ、最初から将来を見据えてスタートができて、植えられた植物にとってもよいことです。キュレーターの立場でデザイナーの意図を反映した植栽管理方法も具体的に提案していけるといいですね。
東京都立川市で2020年に開業した複合施設「GREEN SPRINGS」に低木地被類植栽デザインで参加させていただきました。ここでは、完成してからも年4回「協働巡回」(このHPでは、ウォークスルーと表現しています)として、事業者、設計者、管理会社、我々、ガーデナーが集い、それぞれの立場で植栽管理のこれからを話し合っています。みんなで課題を解決して、みんなで将来の計画を考える仕組みができています。ガーデンキュレーター協会設立をきっかけに、このような形での維持管理が増えていくことを期待します。適切な手入れがされた植栽は、まちの価値を上げていくと思います。
これから仕事として緑に関わりたいという人にガーデナーの仕事、職能も知ってもらい、ガーデンキュレーターを目指す人が増えたらいいですね。緑に関わる人が増えて、ガーデニングが文化として育っていくことを期待しています。
インタビュー:梶田亜由美(森ノオト)