育てる緑の楽しさを、個人の庭からまちの景色におすそわけして、豊かな公共の緑をつくりたい。ガーデンキュレーターは緑の全体を俯瞰しながら、互いに学び、補い合って、社会的に認められてまちの風景を素敵にしていけたら。

植物に覆われて気持ちよく呼吸しているかのようなplanted。東急東横線大倉山駅からのんびり歩いて10分ほど

この仕事を始めたきっかけは?

 おしゃれなもの、かっこいいものが昔から好きで。植物と雑貨を複合的に扱うライフスタイルショップの先駆けだった、東京、自由が丘の「サンクスネイチャー」というお店で16年ほど勤務した経験をもとに独立して、2018年5月にPlantedをOPENしました。お店の場所は元々は実家で、母がタバコ屋を営んでいたんです。大工だった父が他界したのを機に、思い切って家を建て替えました。

 最初に就職したのは不動産会社です。賃貸物件の営業。それも、特別やりたいことではなかったから転職したいなと思って、飛び込んだのが、切り花の世界でした。都内にあった小さな花屋なんですが、テレビ番組のセットのお花とか、楽屋花なんかをつくるところだったんですよ。僕は花の知識もないので、ひたすら配達するみたいなところから、だんだん仕事を覚えて、なぜか、カフェ兼花屋を切り盛りすることになりました。その後、横浜の切り花屋に移ったのですが、鮮度重視で廃棄も多い、切り花のスピード感についていけなくなって、次第に、根っこの世界の方になびいていったんです。

 サンクスネイチャーは、当時最先端という感じで、ガーデン用品や雑貨と植物が並び、オーガニックカフェも併設されて、おしゃれだな、いいお店だなあと働く前から、実はよく通っていたんです。お店で植物を使った講座やワークショップをやるというスタイルもサンクスネイチャーが初だったんじゃないかな。そこで、ガーデナー講座をやっていたので、受けたいなあと思いながら行けなくて。仕事をどうしようかと揺れているときに、求人が出ていると聞いて、応募したらめでたく採用されたんですよ。

 サンクスネイチャー時代には、神奈川や千葉など各地で新規店舗の立ち上げに関わりました。植物の仕入れから店長、店舗統括など幅広く経験させてもらいました。でも複合型のお店は経営が難しくて。最初はいいんですが、持続させるのがとても難しい。店売りだけでは厳しいから、自由が丘の本店に「ガーデンデザイン課」があったのを真似て、新規店舗でも庭づくりをする部門を立ち上げました。そんな流れで、だんだんと、植栽のデザインや施工も手掛けられるようになってきました。

自分の強み、得意分野を教えてください

 お店と庭づくりと両方やっていることですね。店舗兼事務所がそのままショールームだから、お客さまがうちのセンス、世界観を気に入って、お任せしますと、依頼してくださるんです。

 そこにもともとあったような自然な景色、何気ない地味な草木でつくる庭が僕は大好きなんですけど、お店で現物を見ながら相談に乗って、お客様の作りたい景色を目指して、必要な資材や雑貨、植物を仕入れられる。ホームセンターやガーデンセンターでは聞けない、仕入れから植物を買った後の手入れや、暮らしのことまで聞けるのが強みだと思います。最近は、新築のお庭の相談を受けることが多いです。

 植物と雑貨とアパレルもと幅広く扱っているので、スタッフは大変なんですが、お店と庭づくりとが影響しあって、循環するということを常に意識しています。

部屋に備え付けている様々な花

中程度の精度で自動的に生成された説明
店内一階にはガーデニング用品や観葉植物が並ぶ
建物の間の道路

中程度の精度で自動的に生成された説明
お店側面には立派な石積みがあり味わい深い風景をつくっている

 今、庭づくりでも、ローメンテナンスというのが一種のブームのようになっていますが、僕は、植物を育てる楽しさ、面倒を楽しむってところを伝えたい、発信していきたいと思っています。

 ごみ拾いとまちなかの花壇の手入れをみんなでやる、「大倉山グリーン&クリーン」という活動なんかも地域の仲間と一緒に始めました。お庭も、その家の人のものだけではなく、まちにもその景色をおすそわけする感覚でつくり、育てていくことを考えるのが、豊かさにつながると思っています。

「植物の学校」をつくりたいという夢もあって、気になる講座やお店には積極的に足を運ぶようにしています。僕ももっと学び続けたいし、「育む緑」ということをテーマにして、植物好きが集まるお店にしていきたいんです。

道路に面したお庭の施工例。宿根草を中心に多品種で構成
石やウッドチップのマルチングを使い、よりナチュラルな雰囲気をつくる

ガーデンキュレーター協会設立に向けての意気込み、期待すること

 造園の世界って、実はいろんな団体があるんですけど蛸壺化しているというか、横のつながりをつくるのが難しい。だから、ガーデンキュレーター協会は、全体を覆いつくすような、開かれた場であってほしいと思っています。能力的にも、キュレーターは全体を俯瞰して見ることが求められるし、所属する個人や各団体が、個の集まりではなく、不足を補い合い、サポートしあえる関係性を保てると良いですよね。そのためにも、「知識の深掘り」ができる機能を求めています。

 高校や大学で専門の勉強をしたわけではないけど、僕のように緑に関わっている人はいるし、普通に暮らしながら、緑に関わりたい、自然や植物について知りたいと思っている人は多いと思うんです。

 植物について学べる場所があったらいいなとずっと思ってきたし、ガーデンキュレーター即戦力キャンプにも、僕は、お店として大事にしたい「育む緑」ということを学びたいから参加しています。

 設立呼びかけ人の小島さんとの出会いは、サンクスネイチャー時代に遡ります。正確には覚えていませんが、市場で話をしたり、小島さんの施工現場に植物を配達したり、みたいなところから始まって、僕も独立の相談をしたりとか。

 同い年だし、好きなこと、いいなと思うことの視点が似ているんですよね。出会った当時は、キュレーターという言葉もまだ使っていなくて、僕もまだ造園業界のことをよくわかっていなかったけど、小島さんの向かう先、書いたり話していることが面白そうだから、仲間に入れて!という感じで、仲良くなっていきました。

 今後は、キュレーターの基準を明確にしていって、社会的にも認められる職能としてお金を得る仕組みまでつくっていきたいですよね。その結果、まちに素敵な風景が増えていくとよいなと思います。僕たちが暮らしている「横浜」の公共の緑についても、質の高いものにしていきたい、そんなことも考えています。

インタビュー:森ノオト 梅原昭子