公民連携、産官学民の大規模な事例

2日目の発表者は、筑波大学芸術系の名誉教授で農学博士の鈴木雅和さん。2000年に始まり20年以上関わってこられた、筑波山梅林の再生プロジェクトは、調査から、全体設計、管理まで、鈴木先生のキュレーションがあって成功したことがよくわかる事例でした。

1,300本あった梅を500本伐採し、残りの800本も大胆に剪定した当時は、「なぜ木を切るのか?」と、市民からの苦情が殺到し、鈴木先生ご自身も「すべての木が枯れてしまう悪夢を見た!」と振り返って笑いますが、今では、観光名所として年間20万人の観光客が訪れるほど親しまれています。これまでにかかった予算は1億を超えますが、おかげで既に回収できているそうです。意志ある人が、適切な方針で、継続的にメンテナンスを続けると、環境が良くなり、経済的にもメリットがあるというのは、自然や環境にあまり興味がない方に、その意義を伝える際の資料としても役に立ちそうです。

鈴木先生は、GISの技術をいち早く導入して調査、記録に生かすなど、デジタルな分野にも強く、梅林にある一本一本の木の情報が蓄積されています。また、国土交通省や環境省など国の関わる案件や、団地やニュータウンといった大規模な現場の設計に関わった経験から、分野や発想の違う団体や人とのコミュニケーションの取り方が大事だという話もあり、みなさん熱心に耳を傾けていました。

2限目は、鈴木先生の教え子で、現在、千葉大学大学院の園芸学研究院 准教授の竹内智子さんから公民連携のポイントを教えていただきました。竹内さんは、ランドスケープ学と都市緑地政策を専門とし、東京都の造園職員として26年間働いてきた経験から、首都圏の広域地方計画やグリーンインフラの評価基準の話、日本との比較でニューヨークの公民連携の事例などを紹介されました。造園や植栽の現場で仕事をしているだけでは知ることができない、広い視点から緑を考えるためのヒントをいただきました。

都市部の公園や緑地は心身の健康をつくります。数値では測れない機能や価値を持っていて、それは近年注目されているにも関わらず、公園や緑地のメンテナンスの予算は減ってきています。「今後は、公園や緑地の質を保つため、その評価基準に、ガーデンキュレーターがいるかどうか?といった項目を入れたらどうか。国や自治体の土木事業でも、キュレーターのような、緑を扱いコーディネイトする職能を持った人が必ず関わるように、政策として予算の振り分けができると良いのではないか」という竹内さんの指摘は、キュレーターの育成にも関わる重要なことだと感じます。

3限目の発表者は株式会社URリンケージの高橋和嗣さん。本来のランドスケープ設計の仕事に加え、住民参加型の空間づくりに関わるうちに、多様な人や団体とのコラボの面白さを知ったそうです。現在は、一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会という業界団体の関東支部幹事として、国営公園の樹林環境改善に取り組んでいる話など、管理・監理に関わる具体例をお聞きしました。

国営公園でも樹木が大きくなりすぎたり、過密になっているという問題が起こっています。しかし、前例踏襲の管理の繰り返しの中では、発注者、管理受託者、造園業者の3者とも思い切った伐採ができないケースも多いため、「ランドスケープコンサルが3者に現場で問題点・課題を説明し共感を得たうえで、植物管理のための設計や指針となる資料を作ってあげる『ウォークスルー手法』が重要」だと高橋さんは言います。景観の美しさや生態系の豊かさ、動線づくりのためなど、木を切る理由を明確に図面や資料で示して、伐採後の改善効果も含めて記録に残すこと。そうした作業が、植物管理についてもコンサル業務が必要だという認知をひろげ、ひいては美しい風景をつくることにつながっていきます。

ランドスケープコンサルタンツ協会は、ガーデンキュレーター協会の先輩的な立ち位置になり、その役割や求められる職能は重なるところも多く、会の規約や仕事の価格設定など、具体的な協会の仕組み化のために参考になる情報を得ることができました。

ガーデンキュレーター協会設立向けて

会の最後には、主催の小島理恵から、キュレーターの仕事や職能が、一般の方にも理解しやすいように「ジョイントベンチャー」という形で、施工業者とQ-GARDENが組んでマンションの植栽管理を提案した事例が紹介されました。

また、協会の会則案やキュレーターの仕事と役割が提示され、参加者からは、「自分はキュレーターを名乗っていいのか?」という、参加や登録の条件への質問や、キュレーター

育成のための講師陣を推薦し合うなど、活発な意見交換が行われました。

今回得られた情報や意見をもとに、当面の間は組織化を急がず、専門分野の知見を磨きあうコミュニティと位置付けて形を整えていくという方向性を確認して、2日間にわたるキャンプは無事終了しました。

ガーデンキュレーター即戦力キャンプ2024冬
主催:株式会社Q-GARDEN 
取材・執筆・編集:認定NPO法人森ノオト