管理の方針をたて作業計画に落とし込む

現場から戻ると、塾長の山本紀久先生の著書『造園植栽術』の関連する箇所を山本先生から直接解説を受けながら、ガーデンキュレーターとしての今後の具体的な作業の指針となるよう、方針を決めていきました。

上原さんは、「追分の森は多摩丘陵の端に位置し、その自然は、近隣の相模原台地の自然とは違う」と感じており、原風景である湿地環境に戻していきたいという思いがあります。トンボ池の名の通り、「トンボを指標にするとわかりやすい」とだんだん具体のイメージが見えてきました。

2日目の現場実習ワークショップでは、追分市民の森愛護会メンバーの方も、チェンソーや刈り払い機を持って参加して、講師・スタッフを含めて20名ほどでの作業となりました。大体の景観目標を共有したのち、水辺の草刈りチーム、法面の刈払いチーム、枯れ木や景観的に支障となる木を伐採・剪定するチームに分かれます。

水際がはっきりとわかるように貴重な品種は残しつつ、湿地の草は可能な限り刈ります。朽ちて危険な木や、支障となる枝などは伐採・剪定します。
剪定した木材を使ってバイオネストを組み上げ、刈り取った草などはすべてそこに収めます。法面にバイオネストを設置することは、今後の作業時にも使いやすく景観的にも無駄がありません。
バイオネストは2カ所つくられました。太い枝から積み上げて、鳥が巣をつくるように組み上げていくのですが、今回は、斜面につくったので、上部の縁を円形に閉じずに地面の高さに合わせ、ツバメの巣のような作りになりました。詰め込んだ草は分解されて土に還るので自然と嵩が減り、繰り返し使えます。
ai出来上がったバイオネストで親鳥を待つ小鳥に扮して記念撮影。枝を組んで積み上げているだけで杭などで固定しているわけではありませんが、このように人がたくさん乗っても崩れません。
草を刈り泥を掻き出すと、水の湧き出し口が2カ所ほど復活し、淀んでいた流れが目に見えて澄んでいきました。特に、サワラの木の根本から水が湧き出している様子には感動。「ランドスケープは常に水循環を考えることが大切」、「まずは水系を見える化する」という山本先生の昨日の講義での言葉を、現場で体感することができました。
9時半頃から12時半までの約3時間で景色が変わり地形がよく見えるように。遮るものがなくなったせいか、さわやかな風が吹き抜ける心地よい空間になりました。

「メンテナンス・イズ・アート」は、ガーデンだけでなく、里地里山にも共通する考え方です。

キャンプの目的の一つである「この実践を通して、里地里山をガーデンと見立ててガーデンキュレーターが関わり、地元の方と協力して、環境にあった順応型の管理をしていけたら、今後の市民の森の管理運営の一つのモデルになるのではないか?」という仮説を裏付ける成果が、早くも感じられたようで、期待が高まります。

トンボ池での実習は、再び冬にも実施予定とのことで今度の変化が楽しみです。継続することで、希少な植物や虫たちが再び姿を見せ、新たな種とも混在しながら、心がほっとする様な景観がつくられていくのではないでしょうか。

次ページに続く。